DTM --- フリーのVST Hostを探して

概要

 過日、さる(意外と著名な)作曲家の方とお話をする機会がありました。この方、私が1993年頃に作曲したCMソングの編曲を担当した方でもあります。当時、その方のスタジオにお邪魔することになり、その機材の多さに目を奪われたものでした。オープンリールの16trレコーダやら、シンセサイザーのモジュールやら…、そこまではいかずとも、影響ばかりは多大なもので、都合100万円を借りて、買ったんですよね…録音機材と音源と。当時は、それなりに本気だったんです、お恥ずかしい限り。
 で、時は流れ、当時の思い出話に花を咲かせた中で「今でも当時の機材は使ってるんですか?」と質問したところ、「いやいや、全部コンピュータ」との返答。録音機材も高性能・低価格になり、あとは編集も、シンセサイザーもソフトウェアで事が済む…しかも、これが、プロの仕事として活用されているという現実。二人揃って言いました「無駄な金使いましたよねぇ…」

 事実、これらのソフトウェアはフリーで提供されるものも数多くあります。では、ビタ一文掛けることなく音楽の製作は可能なものか。まずは、ソフトシンセを鳴らすところから始めてみます。

VST (Steinberg's Virtual Studio Technology) とか ASIO とか…

 DTM なんざ長いこと離れておりましたから、こんな基礎的な用語さえ知らなかったんですよ、はい。
 ソフトウェアとして、エフェクタ (VST または VSTe) やMIDIエフェクタ、そして楽器類 (VSTi) を実現し、それらの操作をGUIとして提供するプラグインということになります。Steinbergが開発した規格であり、同様の規格の中では最も普及したものであると。ちなみに「同様の規格」にはMicrosoftの DXi (DirectX Instruments)や Apple の AU (Audio Units)があります。

 VSTプラグインを動作させるには、「ホスト」となるソフトウェアが必要で、主に 対応するDAW (Digital Audio Workstation) 上でホスト機能を提供します。
 また、プラグインをリアルタイムで動作させる場合、OS標準のサウンドエンジンは遅延があるため、低遅延、高同期性に優れた "ASIO (Audio stream input output)" と呼ばれる規格などに対応しているサウンドカードなどを使用することが望ましい。

 ASIO…?? 自分のカードには無いです。マザーボード(ECS AMD690GM-M2)のものそのまま使ってまして、ASIOなんて記述は眼にしたこともないですから。
 と思ったら、Windows NTの機能であるカーネルストリーミングを使用したフリーのASIOドライバ(仮想ASIOデバイス)として、ASIO4ALL なるものが提供されているんだそうです。ありがたいことです。ASIO4ALLは、非商用の個人利用に限り無償で利用できます。Windowsで再生音を処理する“カーネル ミキサ”を介さず、音声信号を直接オーディオインターフェイスへ送る“Kernel Streaming”と呼ばれる技術を利用しているため、WDMドライバーに比べ、信号に余分な処理を加えないだけ発音の遅延が 緩和するという仕組みのようです。
 遅延を緩和することで、次のメリットを享受できるとのこと。

VST Host あるにはあるんですが…

 一応…といいますか、最近になって再び音楽を作るようになって、DAWは持ってるんです。Music Sound Producer(以下、MSP) という、素晴らしいソフトです。…シーケンサーとしてのみの利用ですけど。使用感がいいのと、何より無料だってのとで、重宝しています。普段は、USBを介してMIDIを出力し、シンセを鳴らしているもので、しかもMSPには、ソフトシンセが付属しておりまして、何も無理にソフトシンセを導入することは無いのですけど、まあ、そこは好奇心といいますか。
 で、一度、MSPを介してVSTiを鳴らそうと試みたのですが、オチるんですね…MSPが。なので、MSPに対しては過分にVSTホスト機能の期待を掛けず、他のホストを探してみようと思うわけです。

※MSPもASIOに対応しているらしいので、ASIO4ALL導入しておけば改善されるんでしょうか。

 で、MSP以外にもフリーのVSTホストというのは、意外と数あることが分かりました。

MU.LAB Free

 8トラックまでのオーディオ・MIDIデータを扱えるDAW。VSTi や VSTe、ASIOドライバー に対応する他、あらかじめアナログ系のシンセ音源を50種類搭載している。
 保存は独自形式のほか、WAVE形式でのミックスダウンおよびMIDIデータのエクスポートが可能。
 また、実際の音響機器をケーブルでつなぐようなインターフェイスでオーディオ、MIDI信号を音源やエフェクトへ接続でき、1つのアウトプットから複数のインプットへつなぐといった自由な配線を可能とする。

 MIDIデータの編集機能としては、MIDI鍵盤によるリアルタイム入力やピアノロールのほか、リストによる入力が可能。また、クオンタイズやトランスポーズといった一般的な編集機能を備える。さらに、オーディオデータのノーマライズも可能。

※日本語のファイル・フォルダ名が文字化けするものの、ファイルの読み込み自体は正常に行えるとのこと。

MiniHost

ASIO対応でMIDIファイル演奏や録音もできるMIDI/VSTホスト。

MIDIファイルやWavファイルを読み込んで自動で演奏または再生。MIDIファイルは、読み込まれているMIDI音源またはVSTプラグインの音色で再生可。
ハードまたはソフトウェアMIDI音源を指定してMIDI音源をキーボードで鳴らすことや、演奏データをダイレクト録音してWavファイル(16 / 32 bit)に出力することも可能。

その他、アルペジエイター機能、自動でコードを作成できるMIDIコードメーカー、MIDIステップシーケンサー、MIDI CC Gate、プラグイン解析機能(拡張プラグインが必要)、WAVファイルリッピング機能(拡張プラグインが必要)、PCキーボードおよびMIDIキーボードの入力をサポート。

※起動時に、10秒ほど寄付(Donation)を求めるメッセージが表示されますが、全てフリーで使用できます。

VSTHost

VSTiに複数のVSTeを繋げて演奏することが可能なVST Host。

PC内にあるVSTプラグイン各種を一気にスキャンしたり、個別に読み込んだりして、各VSTインストゥルメントを演奏することができる。また、演奏データは、wavまたはMIDIファイルとして保存可能。

■簡単な使い方

  1. 「File」→「Set PlugIn Path…」からVSTプラグインのあるディレクトリを選択
  2. 「Fast Scan Plugins」を実行すると、そのディレクトリ内にあるVSTプラグインを自動的に認識する
  3. 「File」→「PlugIns」メニューが参照できるようになり、認識されたVSTプラグインの一覧を確認し起動する
  4. 実際に演奏するには、「Engine」→「Run」を有効にすると、選択したVSTインストゥルメントが演奏可能な状態となる
  5. MIDIキーボードやPCのキーボードで演奏できるほか、「View」→「Keyboad Bar」で画面下部にキーボードを表示してマウスクリックで音を鳴らせます。
  6. VSTiにVSTeを繋げるときは、VSTプラグインを呼び出したときに起動する小ウインドウの左端の「Chain After」ボタンをクリックし、エフェクトをかけたいVSTiをチェックする

各種VSTプラグインのパラメータは保存(Save Performance)が可能。

Cantabile

 VSTiを音源として利用し、MIDI鍵盤などによる演奏ができるソフト。
 既存のMIDIファイルを再生する他、MIDI鍵盤やPCのキーボードを利用して演奏することができる。

 VSTiの読み込みは、VSTi本体のDLLをダイアログで直接指定する。よく使うVSTiを登録するための“Favorites”リストも準備している。また、読み込んだVSTiの各種パラメーターは、独自形式で保存できる。
 演奏をMIDI/WAVE形式でリアルタイムに録音することができ、発音を感知して自動で録音を開始し、一定時間発音がないと録音を終了する機能を備えている。
 そのほかVSTeを読み込んで、サウンドデバイスから入力された音声にエフェクトをかけてリアルタイム出力する機能を備えており、ギターなどを接続したPCを単体のエフェクターとして利用することもできる。

まずは、ASIO4ALLのセッティングを

 …といっても、インストールはインストーラ任せです。

 インストール終了後、起動すると、"WDM Device List" に、利用可能なオーディオドライバを表示します。ひとまずは"Legend"欄で"Running(動作)"(この他 Available…有効、Unavailable…無効のモードがある)を確認しました。私のPCは、サウンド・デバイスが1つしかないので、自動的に設定されたようです。さらに、次の項目を調整してセットアップを終えます。

項目 概要
ASIO Buffer Size Buffer Sizeが小さいほど遅延を小さくできる。プツプツとノイズが入らない最小の値に設定すると良い。聞きながら調節することになる。
Latency Compensation Advanced モードの項目。異なるサウンドデバイスとの発音のタイミングを合わせるためのスライダ。
作者もよく分からない項目らしく、初期値のままで良いとのこと。
Use Hardware Buffer Advanced モードの項目。WavePCIというミニポートはこの機能を利用することができる。その他のデバイスは、Hardware Bufferは機能しないのでチェックオフにする。
  • Kernel Buffers
    Use Hardware Bufferがオフの場合の設定。
    非力なPC以外は、Defaultの「2」のままが良い。スペックに不安のあるPCは大きな値にしても良いが、遅延が大きくなる。
  • Buffer Offset
    Use Hardware Bufferがオンの場合の設定。
    ハードウェアバッファとASIO4ALLとで交信する許可を出すオフセットタイムを指定する。小さい値ほど遅延を小さくできるが、不安定になる。
    Defaultは10msで、4msにすると限りなく0に近い数値とみなされて設定される。
AC97 Trouble shooting Always Resample 44.1 kHz <-> 48 kHz ASIO4ALLはリアルタイムに44.1kHz<->48kHz間のリサンプリングをすることができる。
AC97のように性能の悪いリサンプラーを持っているデバイスの場合、これをチェックすると音質向上が期待できる。
Force WDM Driver To 16 Bit AC97のように17bit~23bitに出力を持つデバイス用のチェック項目。通常はチェックオフ。

ちなみに、以下にASIO対応のサウンドプレーヤーを列挙します。

※ここで、Frieve AudioでASIOのセットアップを行いましたが、案の定というか、「ASIO Direct Sound Full Duplex」なるASIOドライバーがあったようです。また、Reaperというソフトを導入していたためか「ReaRoot ASIO」なるドライバも検出されました、はい。

いよいよVSTホストを…

 ASIO4ALLのセッティングが呆気なく終わってしまいましたので、MIDIファイルを準備して、VSTを動かしてみようと思います。重視したい点は、何を置いても「安定して発音すること」。まともに鳴らないことには、この先の考えようがありません。仮にマルチ・ティンバーでなく1トラックずつ演奏させることになったとしても、MTRを使用して、録音のために活用するという回避策を考えることができるわけですから。VSTi は、定番と言われる Synth1 を使用し、拙作のMIDI White Hat を演奏させてみました。

 ちなみに、マシンの環境ですが、AMD Athlon™ X2 3600+、メモリ2GBを搭載しています。

 で、早々に結果なんですが、MiniHost、VSTHost、Cantabile、この3つは動作に全く問題はありませんでした。ソフトウェアそのものも、起動してから10分程度操作する中で、直感的に覚えていくことができました。VSTHostにもPCキーボードで演奏する機能があり、Cantabile共々、VSTiの音作りの確認に重宝しそうです。
 一方、DAW系は期待した結果に至りませんでした。Mu.LABは、VSTiとの相性を評価する以前の問題として、直感的に作業を進めていくことが困難でした。MSPは、ソフトシンセを起動するやいなや動作が不安定となり、PCがオチました。

※今後、他のVSTとの相性など、操作感などを調べていきたいと思います。

結論として

 私の作業環境では、DAWやシーケンサーでMIDIを作成、1トラックずつホストアプリケーションでwavファイルに出力し、ミキシングにはMTRソフトを用いるというのが最良の戦略ということになりそうです。

更新履歴

2008/07/16: 作成


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